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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)630号 判決

上告人

須藤淀吉

代理人

寺井俊正

被上告人

小山重太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。

当事者は、控訴審においても民訴法二三二条の要件を充足している以上、訴の変更をなしうると解するのが当裁判所の判例であり(最高裁昭和二七年(オ)第九七二号第一〇四一号同二八年九月一一日第二小法廷判決、民集七巻九号九一八頁、同昭和二八年(オ)第一〇六一号同二九年二月二六日第二小法廷判決、民集八巻二号六三〇頁参照)、かつ、本件予備的請求は、主たる請求と請求の基礎を同じくするとの原判決の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することができない。

同第二点について。

所論の溝渠が所論のように病害防止のために掘られたものであつたとしても、被上告人の囲繞地通行権の妨害となる態様で掘られている以上、その妨害の禁止を求めることは許されると解すべきである。原判決に所論の違法は認められず、論旨は採用することはできない。

同第三点について。

論旨は、要するに、所有権取得登記を経ない袋地所有者は、その袋地を取得したことを第三者に対抗することができず、したがつて囲繞地所有者に対し囲繞地通行権を主張することができないところ、被上告人は、(五)の畑につき所有権取得登記を経ていないので、(五)の畑を取得したことを上告人に対抗することができず、(五)の畑を除外した場合には、本件土地部分に囲繞地通行権を有するものとは主張しえないはずであるのに、この通行権を認めた原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。

思うに、袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないしこれにつき利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができると解するのが相当である。なんとなれば、民法二〇九条ないし二三八条は、いずれも、相隣接する不動産相互間の利用の調整を目的とする規定であつて、同法二一〇条において袋地の所有者が囲繞地を通行することができるとされているのも、相隣関係にある所有権共存の一態様として、囲繞地の所有者に一定の範囲の通行受忍義務を課し、袋地の効用を完からしめようとしているためである。このような趣旨に照らすと、袋地の所有者が囲繞地の所有者らに対して囲繞地週行権を主張する場合は、不動産取引の安全保護をはかるための公示制度とは関係がないと解するのが相当であり、したがつて、実体上袋地の所有権を取得した者は、対抗要件を具備することなく、囲繞地所有者らに対し囲繞地通行権を主張しうるものというべきである。

本件についてみるに、被上告人は、(五)の畑につき所有権取得登記を経ていないが、前叙の理由によれば、そのことは、被上告人が、上告人に対し(五)の畑についての所有権取得の事実および本件土地部分について囲繞地通行権を有することを主張し、裁判所がこれを認めるにつきなんら妨げとなるものではないといわなければならない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第四点について。

所論の(七)の畑から市道に通ずる通路は、(一)ないし(五)、(八)の畑においてりんご樹を植栽している被上告人の利用方法に照らしその必要性を充足できないものである旨の原判決の認定判断は、挙示の証拠関係に徴して首肯することができ、かかる事実関係のもとにおいては、(一)ないし(五)の畑は、被上告人の所有に帰した現在においてもなお袋地であるというを妨げない旨の原判決の判断は、正当として是認することができる。所論は、原審の認定しない事実をも合わせ主張して原審の適法にした証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、論旨は採用することができない。

同第五点について。

囲繞地通行権の認められるべき位置、範囲は、事実審の口頭弁論終結当時の事情のもとで判断されるべきものであり、原判決に所論の違法は認められない。

したがつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男 小川信雄)

上告代理人の上告理由

第三点 原判決には民法二百十条の解釈を誤つた違法がある。

一、原判決は被上告人が第二目録(一)乃至(五)の畠のために本件土地部分に囲繞地通行権を有することを認定している。

二、而して右の畠については被上告人は何等所有権の移転登記を得ていないと言うのである。

三、囲繞地通行権は袋地の所有者に対し所有権に基づき認められる権利であるから、その所有者は自己の土地所有を第三者に対抗し主張しなければならず従つて所有権移転登記を経ない自己の土地について囲繞地所有者に通行権を主張し得ないものと解せられる。

此点に於て原判決は法解釈はあやまつている。

四、而して右(五)の土地は本件八四番、八五番土地に最も近接している土地と言うのであり若しこれを除外した場合囲繞地通行権の認められるべき土地(又は土地部分)については当然異る結論が導かるべきものであるから右違法は判決の結果に影響があるものである。

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